PTアムステルダムで、日本勢はなぜ勝てなかったのか。

先日行われたPTアムステルダム、日本人の最上位は渡邊雄也の28位。
近年と比較すると、日本勢が本当に大負けしたプロツアーでした。
その後、日本では「日本勢はなぜ、勝てなかったのか」というタイトルで、様々なプレーヤーがブログを更新し、非常に多くの意見が出ています。
火付け役となったのは日本語版カバレージに掲載された、同タイトルの記事。
自分や中村修平、渡邊雄也、それから三田村和弥や津村健志に大塚孝太郎等、多数の日本人プロプレーヤー達のインタビューをもとに、
日本勢が明確に「負けた」という事と、その原因を分からせてくれるような記事でした。

大敗した日本勢の当事者として、僕視点でも改めて記事にしたいと思います。

日本が負けたのなんて、一見皆さんには関係ないように思われるかもしれませんが、実際のところ、勝ってる国より負けてる国のほうが多いし、
勝ってるチームより負けてるチームのほうが多い。そして、勝ってる人より負けてる人のほうが多い。だからこの記事を書けば、誰かの役に立てる可能性は高いと思ってます。
それに、現状、LSV、PV、Brad NelsonらのチームChannelFireballは世界最強だし、今回もかなり勝ってたから勝者の記事は他に沢山読めますしね。
(僕も広く見ればChannelFireballの一員ではありますが、彼らとは別に日本で活動しています。)
という事で、今回は敗者としての記事です。

まず、僕が思うに日本勢が大敗した直接的な理由は、構築戦でベストなデッキ選択が出来なかった事だと思います。
なぜなら、構築戦の準備と比べ、リミテッド戦の準備の方がそれぞれが色んなメンバーとやるし、人によって練習量が大きく違う為、非常に個人差が出る為です。
僕、中村、渡邊、中村をはじめとする日本勢の多くが今回のエクステンデッド選択したデッキタイプは《紅蓮術士の昇天/Pyromancer Ascension》デッキ。
そして、名前を挙げた4人は全員、最終的にベストだと思ったこのリストを使いました。

[deck]4 Cascade Bluffs
1 Forest
4 Grove of the Burnwillows
4 Island
4 Misty Rainforest
1 Mountain
4 Scalding Tarn
4 Tarmogoyf
4 Cryptic Command
4 Lightning Bolt
4 Mana Leak
4 Manamorphose
4 Ponder
4 Preordain
4 Punishing Fire
4 Pyromancer Ascension
2 Time Warp
Sideboard
4 Countryside Crusher
2 Flashfreeze
2 Jace, the Mind Sculptor
3 Negate
3 Relic of Progenitus
1 Volcanic Fallout[/deck]

《紅蓮術士の昇天/Pyromancer Ascension》デッキはほとんどの国の人が知っているだろうと考え、サイド後に墓地対策やエンチャント破壊でメタられる事を前提とし、
デッキのコンボ性をマイルドにしつつ、2本目から《田舎の破壊者/Countryside Crusher》を入れ、クロックパーミッションに変身出来るようにしました。
結果は上から順に渡邊8-2、中村6-3-1、齋藤5-5、三田村2-3(初日落ち)
そもそも疲れやすい&ミスりやすいデッキではあったのですが、僕は今回ミスにより1マッチと1ゲームを落としているので、まあまあのデッキ選択だったと言えるかもしれません。
ですが、決してベストな選択だったとは思いません。

勝者達、トップ8に残った各デッキにスポットを当てると、僕達がつくれていなかったものばかりでした。
まず、ChannelFireball勢が使用したドランについては、僕達もドランを試してはいましたが、「強いドランをつくれれば選択肢に入る」と言っていただけで、
《壌土のライオン/Loam Lion》に気が付いていませんでした。
白ウィニーについては、沢山いるであろう《罰する火/Punishing Fire》コンボに弱いからという理由で試してもいませんでした。
マーフォークも白ウィニーと同様の理由で試してません。《燃え柳の木立ち/Grove of the Burnwillows》対策の《広がりゆく海/Spreading Seas》が自然に入るデッキなので、
今思えば試す価値のあるデッキだったと思います。
クイッケントーストや根本原理コントロールについても、一応場にはありましたが、全然練り込まれていないようなリストでした。
ジャンドは準備期間の初期にありましたが、各デッキに対する勝率の平均が悪かったので、すぐ抜けていきました。

僕達が活動拠点としている東京近辺では、週に2回エクステンデッドのトーナメントがあったのですが、昇天デッキが勝ちまくっていた為、
最強の昇天デッキをつくれば最強だろうというような感じで進んでしまい、他のデッキがなかなか伸びなかったり、
新しいデッキを試す事が手薄になってしまっていたというのが一連の流れです。
もちろん、他のデッキを使う可能性を考えなかったわけではないのですが、昇天デッキが秘めているやっかいな性質があり、
それは比較的デッキリストの微調整とプレイ練習に時間がかかるデッキだったという事です。新しいデッキを試すことと、暫定の第一候補の調整&練習をすること。
それら両方を十分にやる時間や人手は僕達にはありませんでした。

この事実をもとに、今度は間接的な敗因を探っていきたいと思います。
まず、今回のキーと言えるのが「時間」と「人手」でしょうか。

・《紅蓮術士の昇天/Pyromancer Ascension》デッキの性質。
1ターン目から《思案/Ponder》や《定業/Preordain》を打ったり、《謎めいた命令/Cryptic Command》が入っていたりするので、
選択肢が非常に多いデッキな為、多くの練習が必要でした。
また、コントロールよりのデッキとなっていった為、調整に時間がかかりました。
特に今回のような全く新しい環境でのコントロールデッキの調整となると、何が何%ぐらいいそうかという事を予想するのにとても時間がかかります。
僕が持っている理論のひとつに、赤単理論というものがあって、それは赤単のようなデッキは準備も本番も時間がかからなくて良いというもの。
コントロールと比べ、圧倒的に引き分けになりにくいし、準備期間では、コントロールデッキのプレイテストを10ゲームやっているうちに、
赤単のプレイテストを20ゲームできるような事も多々あります。
ゲーム数を目安とするなら、赤単はコントロールの2倍の練習できるし、2倍調整できるといっても過言ではないでしょう。
そういった側面から見て、《紅蓮術士の昇天/Pyromancer Ascension》は時間を使いすぎるデッキでした。引き返せなかった。

・プレーヤー達の高年齢化による、使える時間の減少。
初めてプロツアーに出た頃は若かった。自分は16才だったし、他の参加者も10代や20代前半が沢山いた。
最近の日本ではプレーヤーの高年齢化が進んでいて、それはプロツアーに行く人も一緒で、仕事や学業をしながら練習してプロツアーに行く人が増えました。
毎日のようにまとまった時間練習できる人数は、全盛期と比べ、半分ぐらいになってしまったような感じがします。
そうなると、各マッチアップのデータ取りは遅いし、試せないデッキも出てきます。

・情報交換する人数が少なかった。
今回、日本人でPTアムステルダムに参加したのは41人。アメリカの127人の次に多い人数です。
これだけいて、トップ32に1人しか入らなかったと考えると確かにかなりの大負けです。
参加者の約10%が日本人という事で、明確なデメリットがあるので、最後まで全ての情報を日本人全員で共有するのは不可能だろうと僕は考えています。
しかし、新しいフォーマットで行う構築戦では、最初はできるだけ多くの人数で練習や、情報収集&情報交換したほうが良いという事には確信を持っています。
なので、最初の頃は10~15人程度でやっていましたが、さらに多くの人と情報交換をし、効率を上げていかなければならなかったのかもしれません。
海外勢との情報交換についても、GP等で軽く話した程度で、積極的には行っていませんでした。
全体で取れる時間が少なくなっているなら、人数を増やす事でのフォローを計る必要があったようです。

・GPコロンバスに沢山時間を使った。
コロンバスに向けて時間を沢山使った為、自分がエクステンデッドを始めるのが遅かった。
僕自身の時間が減ったのはもちろんだし、嬉しさと悲しさの両方あるのですが、僕達のコミュニティにおける僕の影響力は大きいと考えています。
自分でデッキを回す時間は取れずとも、デッキリストを出したり、カードプールから注目カードやコンボを洗い出す等、もっと早くから出来る事はあったかもしれません。

また、それ以外にも間接的な敗因は色々あると思います。

・アメリカ人が強くなった。
最近、ChannelFireball勢を筆頭に、アメリカ人が強くなったと明確に感じています。
トップに躍り出る者がいれば、相対的にそのぶんだけ他者が落ちていく。
これはひとつの大きい要因となっているかもしれません。
そもそも、日本勢が一番勝っていた時期は、日本、フランス、オランダの3強と言われていた時で、世代交代中のアメリカが弱かった。
最も参加人数が多い国のプレーヤーが強くなっているなら、その影響は大きいでしょう。

・日本人は発明苦手で改良得意。
これは、日本人プレーヤーのブログ巡回中に見かけて、非常に的を得た意見だと思いました。
日本では一般的に、日本人は全く新しいものを作るのが苦手な人種だと言われています。
もしそれが本当なら、今回のような全く新しいフォーマットでは大きなデメリットとなります。
確かに、練習用の新しいデッキが出来てくるのが全体的に遅いように感じました。

・デッキビルダーの不在。
日本にはデッキビルダーが少ない。こんな意見が出ていました。
多少強引に解釈すると、「頼れるあてがない」というような感じで。こんな意見が出るような状況は、確かにそれは問題でしょう。
プロツアー的に見れば、5年前まで日本勢上位は日本人初代殿堂の藤田剛史(Tuyosi Fujita)さんと石田格(Itaru Ishida)さんに頼りすぎていました。
僕は本来、プレーヤー全員がデッキビルダーであるべきだと考えています。
だって、ドラフトした後みんなデッキをビルドするじゃないですか。マジック始めた頃自分でデッキ組んだじゃないですか。
新しいデッキを組んできて、結果として失敗だっていいじゃないですか。誰も可能性を感じなければひとつ悪い道を閉ざせるし、
誰かが可能性を感じで組み直し、そのアイデアや構成が昇華するかもしれない。そして、デッキ構築能力は確実に上がっていきます。
プレイだって、デッキ構築だって、やらなきゃ、上手くなりません。
みんながそういう気持ちではないというのが、今回のような全く新しい種目での間接的敗因のひとつではあるはずです。

その他にも色々と意見が出ていましたが、今回の敗北に対し僕が思う、主だった間接的敗因は上記のものです。
一応、他に挙がっていた意見も出しておくと、
・リーダーの不在。
・日本人は英語が出来ないので情報戦で不利。
・チーム等の明確なコミュニティの喪失。
・新規プロが減っている。
・円高により賞金が大きく下がってAll inしにくくなった。
・リミテッドでも遅れをとっていた。
等が挙がっていました。これらは問題ではありますが、特に今回に関して大きな問題だったとは思いません。

【今後、どうすれば勝てるのか】

日本勢、今回は確かに大敗でした。
しかし、大きな敗北には、大量の養分が含まれている事を僕は知っています。
こんな記事を書いているという事実も、その養分のひとつでしょう。
なぜ、勝てなかったのかの分析は済みました。重要なのは、自分がそこからどうするか。
プロプレーヤー齋藤友晴として、大きく分けて、3つの選択肢があります。
1つ目はこのまま、日本での活動環境向上に尽力しつつ、日本勢として頑張る事。
大体の人はここまでしか考えないだろうと思います。もちろん、なんら悪い事ではありません。
しかし、環境を大事にする僕は、他に2つの選択肢が浮かびました。
2つ目は、日本を飛び出し、チームChannelFireballの仲間に入れてもらう事。
3つ目は、色んな国のスターを集め、連合軍的なものの結成を目指す事。

ひとつひとつについて、考えました。

・日本で頑張る案
今までやってきた事をよりよい形で継続していく事を目指す。そんな案です。
この案の場合、自身の影響力が大きい中で、何が出来るかが非常に重要。

・ChannelFireball案
最強チームに入り、思う存分自分の力を発揮する。そんな案です。(もし、入れてもらえれば)
直近だけ見た場合、今よりも勝てる可能性が上がると思います。
しかし、今のまま勝つより、最強チームに入って勝つほうが、プロとしての魅力が少ないというデメリットがあります。
また、今年POYを取ろうとしている僕にとって、現在POYレース首位のBlad Nelsonと同じデッキを世界選手権で使うのは得策ではない。

・連合軍案
強い奴集めれば勝ちやすいという単純な発想から来た案。
かかる手間に対しての効果、つまりはコストパフォーマンスが悪そう。
上位陣全体が強くなってしまうし、強いデッキが出来た時の流出のケアが難しい。

よって今まで通り、いいえ、今まで以上に日本勢として頑張っていく事にしました。
ChannelFireballに関しては、アメリカのグランプリ前に練習に混ぜてもらう事があるかもしれませんが。
で、日本でどうしていくかを、とりあえずは先ほど挙げた今回の間接的敗因を基に考えていきたいと思います。

・《紅蓮術士の昇天/Pyromancer Ascension》デッキの性質に対して。
いくら時間がかかるといっても、魅力を感じているデッキを充分調整する事は悪じゃない。
人や時間を増やす等、効率化できる部分をきっちりやっていく事で解決する問題だろう。
あとは、今回このデッキを早くから全体で触りすぎていたので、しっかり役割分担しなければいけない場合があると思う。

・プレーヤー達の高年齢化による、使える時間の減少や、情報交換する人数が少なかった事に対して。
プロツアー参加者との繋がりをもっと広げたり、新人を発掘したり、育つのに協力する必要があるだろう。
それぞれが使える時間が減っていくことには介入しにくいが、仲間を増やすという事には介入しやすい。

・GPコロンバスに沢山時間を使った事に対して。
今回に限った事じゃなく、他のイベントや仕事によって、練習時間が削られてしまう事はよくある。
そんな時、小さなアクションでも良いから出来る事をやるべき。
例えば、デッキを組んで「時間があればこれ回しておいてよ」って渡すだけでも全然違う。

・日本人は発明苦手で改良得意な事やデッキビルダーの不在に対して。
結果として、今回のPTでは発明はなかったといっても過言じゃない。
トップ8に残ったドラン、白ウィニー、ティーチングコントロール、ジャンド、マーフォーク。
どれも聞いた事があるデッキ名ばかりだ。誰も見た事がないコンボを搭載していたわけじゃない。
まずは全デッキの改良をしっかりする事。そして、改良を重ねる事が結果として新たな発明になる事もあるし、発明に関しても繰り返し試みる事で発明能力は上がっていくだろう。
また、自分が頑張るだけじゃなく、「あのデッキ作ってきてよ」や「毎回一人ひとつ新しいデッキを持ってこよう」等、なるべく具体的な提案をしていこうと思う。

もちろん、日本を代表するプレーヤーとして、これら以外にも出来る事をやっていこうと思う。

今回は大敗から次にどう繋げるかというテーマの記事でした。
自分が負けた後、皆さんはどんな事を考えていますか?
僕が一番いけないと思うのは、ミスって負けた時、「ミスって負けたー」デッキが弱くて負けた時、「デッキ失敗だったー」で終わってしまう事。
なぜそのミスが起きたのか。睡眠不足からか?練習不足からか?はたまたルールの勘違いからなのか?
そういった原因をきちんと分析し、対策していかなければそんなに勝率は上がっていきません。

この記事を通して僕が伝えたい事。

トーナメントに出て成功しても、失敗しても、結果はハッピーなんです。

あなた次第で。

齋藤友晴より、世界中のマジックやってる兄弟達へ。